橈骨遠位端骨折後のリハビリって何するの?怪我を予防するための【転ばぬ先の杖】




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骨折と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

「強い痛みがある」、「変形している」、「ギプスで固定されている」、「手術するかもしれない」…などと考えると思いますが、その中で【リハビリをしないと関節が硬くなって動かなくなってしまうかも】と考えた人は少なかったんじゃないでしょうか?

もちろん骨折をすればギプス固定や手術をして骨折を治療していきます。しかし、そのままでは隣接する関節や組織は拘縮癒着といった合併症を引き起こし、骨折が治癒したとしてもうまく動かせないといった状態になってしまいます。私は治療を開始したばかりの患者さんに「こんなに関節が動かなくなるんですね」「これじゃあ今は使えないですね」といったことをよく言われます。そんな状態で放置してしまうともちろんカチカチで動かなくなってしまいますが、じゃあ動くようにするためにはどうしたらいいのか…ということでリハビリの出がくるわけです!

普段私が臨床で行なっているリハビリテーションは、病気や怪我をしなければ行う必要はありませんし、そう考えると皆さんにそれほど馴染みがないのかもしれません。ただ、骨折をしてから治療が終わるまでの間に一番関わるのが意外とリハビリであるケースが多いんです。

じゃあ、骨折のリハビリテーションとは一体何をするものなのか。骨折の中でもメジャーなものの一つに『橈骨遠位端骨折』というものがありますので、それを例に説明していきます。




橈骨遠位端骨折とは

前腕の橈側(親指側)にある橈骨と呼ばれる骨が、手首に近い位置で骨折するものを橈骨遠位端骨折と言います。転んだり高いところから落ちてしまった際などに手をついて受傷する頻度の高い骨折で、高齢化が進む日本では増加傾向となっています。

骨折の程度や型によって様々な分類があり、Colles骨折Smith骨折と呼ばれるものが有名です。

Colles(コレス)骨折:骨折部が背側(手の甲側)に転位し、フォークの様な見た目に変形する。橈骨遠位端骨折の約半数を占める。

Smith(スミス)骨折:骨折部が掌側(手のひら側)に転位する。Colles骨折とは逆の変形を呈する。

橈骨遠位端骨折の治療

治療は、骨折の程度や型によって選択されていきますが、患者さんの年齢や既往の疾患も考慮されます。方法としては保存療法経皮ピンニングプレート固定などがあり、状態に合わせて医師が治療方針を提示し、患者さんの同意のもと治療を行なっていくことが基本です。

保存療法

徒手整復により、折れた骨を元の位置に戻しギプスで固定します。骨折の程度や骨癒合の経過によりますが、一般的に固定期間は4〜6週とされています。

経皮ピンニング

鋼線を皮膚上から骨折部へ向けて刺入し、骨折部がずれない様に固定します。骨折の程度としては、比較的軽くて骨折骨欠損がなく、骨皮質の粉砕がない場合適応となるケースが多い治療法です。侵襲が少なくて済み、特に小児の橈骨遠位端骨折において選択されることの多い方法となっています。

プレート固定

チタン合金のプレートをスクリューによって固定し、骨折部を安定させます。多くの骨折の型に対応して、十分な骨折部の固定が行えます。現在ではロッキングプレートというものによって強固な骨折部の固定が可能となり、術後早期より手首の可動域訓練を行うことができます。保存療法が難しい場合、こちらの治療を選択されることが多いです。プレート固定後には手関節の保護用に安静時や寝る時に市販のサポーターを使用する場合もあります。

 

橈骨遠位端骨折後のリハビリテーション

冒頭でもお話ししましたが、骨折に対して医師による適切な治療が行われていても、そのまま動かさずにいてしまっては拘縮(軟部組織が変化し関節が硬くなる)や癒着(腱と周囲組織同士がくっついてしまう)といった合併症が生じてしまいます。

拘縮:靭帯や関節包など、関節周りの軟部組織が短縮などの変化を起こし、組織の柔軟性が低下している状態。一般的には怪我や病気などにより動かせない状態が続くことで生じる。

腱癒着:浮腫や関節拘縮によって腱の動きが制限されてしまい、骨折部周囲の組織と腱が癒着することで腱の滑走障害が起きた状態。橈骨遠位端骨折の際には、特に長母指屈筋腱(親指の第一関節を曲げる腱)・手指屈筋腱に生じやすい。

拘縮や癒着が生じると、手関節や前腕、手指に可動域制限をきたします。日常生活や仕事、スポーツなど様々な場面で妨げとなってしまうことが多く、予防することが重要となります。

この様な合併症を防ぐために、リハビリテーションが重要になってきます。実際にどの様な訓練を行っていくのか、以下に私が普段実施している運動の一部をご紹介します。

注)現在治療中の方は担当の医師や療法士の指示に従って訓練を行なってください



手指の運動

自動運動によって関節を動かすことで腱の滑走を促していきます。各項目において番号の順番に繰り返し動かしていきます。

1)手指屈曲運動

2)母指対立運動

3)手指内外転

母指の運動

母指(親指)の屈筋腱は癒着が起きやすいところであり、以下の運動を行い予防します。2)では特に長母指屈筋腱に対して効果的に運動が可能です。

1)屈伸運動

2)第一関節屈伸運動

手関節の運動

手関節は関節拘縮を起こしやすい部位であり、しっかりと動かす必要があります。

1)背屈・掌屈

2)橈屈・尺屈

前腕の運動

前腕の回旋運動が制限されると「両手で顔が洗えない」、「ドアノブが捻れない」といった日常生活での問題が多く生じるため、この運動も重要となります。肩の動きで代償しないように肘は脇につけた状態で行います。

転ばぬ先の杖

骨折の原因には、スポーツや事故、転倒といったものがありますが、特に高齢者は骨の強度が低下しているため、高齢化が進んでいる日本では毎年多くの方が骨折しています。高齢者の怪我の原因のおよそ8割は転倒によるものと言われており、屋内・屋外共に転倒を事前に防ぐことが骨折の予防へと繋がります。

転倒を防ぐためには、「歩きやすい靴を履く」「杖やシルバーカーを使う」といった環境面を整えることや、日頃から「ウォーキング」「体操」などといった適度な運動によって身体機能の衰えを予防していくことも重要です。ただし続けられないような過負荷な運動は逆効果であり、無理のない範囲で簡単な運動を継続して行うことが重要です。

 

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